借用書なしの借金は返済義務や時効があるのか?

更新日:2024/03/11

借用書なしの借金は返済義務や時効があるのか?

銀行などの金融機関や消費者金融といった貸金業者からお金を借りる場合は、必ず契約書を作成します。

しかし個人の貸し借りや取引が長い事業上の取引先同士では、借用書なしでお金を融通することはよくあることです。

借用書なしの借金はいわゆる口約束ですが、この場合、法律的にはどのような効果や制約があり、そもそも契約として成立しているのでしょうか?

今回は借用書なしの借金について、貸した側と借りた側の双方の立場を法律的に検証してみましょう。

アトムくん編集長_田中

2級FP技能士 田中 宏一郎 氏
2級FP技能士。これまでに5社の消費者金融カードローン(アコム・プロミス・アイフル・SMBCモビット・LINEポケットマネー)、3社の銀行カードローン(楽天銀行スーパーローン・三井住友銀行カードローン・みんなの銀行ローン)と契約。過去には父の借金で一家離散を経験するも、奨学金のおかげで大学進学。奨学金の完済と同時に住宅ローンの返済がスタート!借金の酸いも甘いも知るアトムくんの編集長。

借用書の意味

そもそも借用書や契約書にはどのような法律的意味があるのでしょうか?
借用書の意味や効果について法律的に解説しましょう。

契約の成立に契約書は不要

日本の法律では契約の成立する要件として、次の2つが挙げられます。

契約が成立する要件
  • 申込の意思表示
  • 承諾の意思表示

上記2つの意思表示が合致した時に契約が成立します。

お金の貸し借りも契約なので「10万円貸してください」という意思表示と、「10万円貸します」という意思表示が合致すれば、契約書や借用書なしでも契約が成立します。

もちろん金額だけでなく、いつまでに支払うのか、利息はいくら支払うのかという点も含めて意思表示が合致している必要はあります。

金融業者が金銭消費貸借契約書を作成して融資を実行するのは、後のトラブルを防止するためや、法律的な方法で未払いを回収できるようにするためといった理由があります。

商売としてお金を貸付する場合は、相手の経済状況を完全に把握することはできないので、トラブルや未払いが多いことを前提としているからです。

そのため契約書にあらかじめ争いが生じた場合や、延滞が発生した場合の対処の仕方を条文として記載するのが一般的です。

個人の貸し借りの場合は相手をよく知っている、貸付金額が少ないといった理由で借用書を作成しないことが多いのです。

しかし、借用書ありなしに関係なく、意思表示が合致しても契約が有効にならない場合もあります。

契約が無効となるケース

契約が成立しないケースとしては次の3つがあります。

契約が成立しないケース
  • 通謀虚偽表示による無効
  • 錯誤無効
  • 詐欺または強迫による取り消し

通謀虚偽表示による無効は簡単に言うと、お互いに示し合わせてお金の貸し借りがないのにあったように見せかけた場合のことです。

錯誤無効は勘違いして利息なしで借りたつもりが年10%の利息を支払わなければいけないといったケースです。

詐欺または強迫による取り消しは、騙したり脅したりして貸付した場合のことです。

錯誤無効のケースでは借用書がなければ借りた側が錯誤を証明することが難しくなるので、場合によってはそのまま支払わなければいけなくなります。

借金の場合は、特に錯誤無効に関するトラブルが多いので、貸した側も借りた側も借用書がなければ証明が難しくなります。

借用書や契約書はお互いに錯誤がないことを確認する意味でも必要となるので、借用書なしで高額な貸し借りをすることはリスクが高いです。

借用書の効果

借用書を作成しても裁判などで争いになった場合に一定の証拠能力があるというだけで、借用書そのものには法的な強制力はありません

例えば返済期日に遅れた場合に強制執行ができるという文言が記載されていても、すぐに強制執行ができる効果はありません。

法律的に強制力を持たせるのであれば、公正証書を作成する必要があります。

公正証書は公証役場で作成する公的な書類で、公証人が署名・捺印することで内容に法的効力が発生します。

債務者の署名捺印や費用が必要となりますが、高額な個人の貸し借りの場合は後のトラブルを防ぐ上でも貸す側は公正証書も検討してみましょう。

借用書なしでも契約が有効な場合の注意点

契約が無効となるような要素がなく借用書なしで契約が成立した場合でも、後でトラブルとなるケースがあります。

借用書なしでお金の貸し借りで気をつけなければいけない点を、貸した側と(債権者)と借りた側(債務者)の立場から考えてみましょう。

債権者は貸した事実を残す

友人にお金を貸す場合は現金で手渡すのが一般的ですが、少額の場合や返してもらわなくてもいいと考えている場合はこれでも構いません。

しかし高額な場合で返してもらいたいと考えているのであれば、現金ではなく銀行振込で貸しましょう。

通帳に記録が残ることで貸付したという事実を証明できるので、後でトラブルでとなった時に役立ちます。

同じ意味で返済も振込にしてもらえば、いくら支払っていくら残っているかがはっきりします。

借用書を作成しない場合は特に貸し借りがあるということを証明できるものを残しておきましょう。

しかし、最も大切なのはお金を貸す場合は借用書を作成するということです。

友人が相手だと言い出しにくいという気持ちはわかりますが、友人であるからこそ後でトラブルによって人間関係に影響がないように借用書は作成しておくべきです。

むしろ借用書の作成を拒む人に対しては、お金を貸さないというくらいの気持ちを持ちましょう。

債務者は返済の証拠を残す

お金を借りた場合は借用書があってもなくても返すのが当然のことですが、法律的にも契約が成立しているということを忘れないようにしましょう。

親からお金を借りた場合も同様です。

しかし、返済できなくなったり、反対に相手が受け取らなかったりといったケースもあるので適切に対応しましょう。

まず借りる時は借りた金額がはっきりわかるように、借用書や契約書を作成して一部控えとして保管しましょう。

それができない時は銀行振り込みしてもらい記録を残すようにしましょう。

返済は現金の手渡しの場合は領収書を受け取り、銀行振込の場合は通帳に記帳して保管しておきましょう。

債務者としては、いついくら返済したという記録を残しておくことが必要です。

それでもトラブルが発生した時には不利になることもあるので、お金の貸し借りは借用書や契約書を作成するのが原則です。

特に事業に関する金銭の貸し借りには契約書の作成は必須です。

法律的な問題点

借用書なしのお金の貸し借りでは、契約書があればそれほど問題とならないことも、法律的に難しくなる場合もあります。

消滅時効

金融業者や金融機関からの借入は消滅時効の期間は5年ですが、個人の貸し借りでは10年と長くなります。

消滅時効は一定期間が経過すると権利が消滅するので、債権者は充分に注意する必要があります。

消滅時効は何もしないでいると10年で成立しますが、次の行為があるとリセットされその時点から10年となります。

消滅時効がリセットされるケース
  • 請求
  • 差押(仮差押、仮処分)
  • 承認

上記は事項を中断する行為で、請求や差押は裁判手続きが必要ですが、承認は債務者が債務の存在を認めることなのでで、一度でも返済をしていれば承認とみなされます。

つまり時効は最終的な返済の日から開始されると考えましょう。

債権者はなるべく時効を成立させないためにも、まったく返済しない債務者に対しては法律的な請求や強制執行などで時効を中断する必要があります。

しかし借用書がなければ債権そのものがあるのかを証明する必要があるので、少額でも返済してもらうことが重要になります。

また、借用書がなければいつ貸したのかという日付もはっきりしない場合があります。

消滅時効の起算日もはっきりしないことになるので、債務者としても借用書がなければ時効の主張も難しくなります。

借用書なしでの取立方法

法律的に借金を取り立てるためには、金銭の貸し借りが存在することを証明しなければいけません。

借用書がないのであれば、まず法律的な取立の前に配達証明付きの内容証明郵便で督促状を発送してみましょう。

個人間の貸し借りであれば効果が期待できます。

しかし、それでも効果がなければ裁判所から支払督促状を送付してもらうことを考えましょう。

裁判所から支払督促状を発送してもらう時点では、債権の存在を証明する必要はありません。

ただし、債務者が意義を申し立てた場合は、口頭弁論になるので通常訴訟に移行します。

債務者が債権の存在を否定する場合は、これに対抗して証拠を揃えることになりますが、法律の専門家でない個人では難しいでしょう。

高額の貸付をして相手に支払う意思がない場合は、弁護士に相談して法律的な手続きの前に証拠集めから始めましょう。

債権額が60万円以下の場合は、弁護士費用や訴訟費用をかけるとマイナスになるので、個人でもできる少額訴訟(少額裁判)がおすすめです。

ただし少額訴訟でもきちんとした証拠が必要で、相手の居住地の簡易裁判所に出向く必要があるので、遠隔地の場合は交通費も高額になります。

10万円以下の金額では訴訟の意味もなくなるので、金額と費用を充分に比較してから考えましょう。

まとめ

借用書がなくても借りた側には返済義務がある法律行為となります。

しかし、特に貸主が必ず弁済してもらわなければ困ると考えるのであれば、少なくても債権者・債務者の署名捺印や貸付金額・返済期日・返済方法・契約日を記載した借用書の作成は必須です。

金銭消費貸借契約書は文房具店でも購入できるので、二部作成して一部ずつ保管しておけばベストです。

そこまでしなくてもいいと考えるのであれば、むしろ貸すのではなく贈与すると考えることで後のトラブルにはなりません。

またお金の貸し借りでトラブルになっても民事なので警察に被害届を出すようなことではありません。

民事のトラブルは当事者同士で解決するしかないので、トラブルを未然に防ぐ意味でも借用書は重要だということを理解しましょう。

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