親の借金の返済義務が子に及ぶケースと及ばないケース

更新日:2024/03/11

親の借金の返済義務が子に及ぶケースと及ばないケース

親に借金がある子どもにとって、気になるのは親が返済できなくなったときの自分への影響です。

一口に親の借金といっても、親が口約束で作った借金や、離婚して一緒に暮らしていない親の借金、親が亡くなってから発覚した借金など、状況はさまざまでしょう。

今回はそんないくつかのケースの借金について、その返済義務は子にあるのかどうかを解説していきます。

アトムくん編集長_田中

2級FP技能士 田中 宏一郎 氏
2級FP技能士。これまでに5社の消費者金融カードローン(アコム・プロミス・アイフル・SMBCモビット・LINEポケットマネー)、3社の銀行カードローン(楽天銀行スーパーローン・三井住友銀行カードローン・みんなの銀行ローン)と契約。過去には父の借金で一家離散を経験するも、奨学金のおかげで大学進学。奨学金の完済と同時に住宅ローンの返済がスタート!借金の酸いも甘いも知るアトムくんの編集長。

口約束で作った借金の返済義務は親にも子にもない

親が知人と口約束で作った借金は、借金の証拠が残っていない限りは親にも子にも返済義務はありません。
なぜなら、金銭の貸し借りを個人間で行った場合、その事実が証明できないかぎり貸し手は法的に返済を請求できないからです。

借金の証拠となるものは、借用書やメール・SNSなどでのやりとり、音声データなど。
お金を借りたときの記録だけでなく、過去に借金の一部を返済した記録や、「何日までに返す」などと返済の意思を示している記録も証拠にひとつとなります。

借金の証拠がない場合には、貸し手と借り手の両方が借金の事実を認めなければ借金はなかったことになってしまいます。

そのため、借金の証拠がなく、かつ親が借金を否定している場合には、仮に貸し手に裁判を起こされたとしても借金の事実は立証されないので、親に返済義務はありません。

借用書なしでの借金の返済義務は、基本的に借り手の道徳心に委ねられるものです。
もし自分が貸す側にまわるときには、きちんと借金の証拠を残しておくことが大切ですよ。

なお、仮に親が口約束で行った借金の証拠が残っている場合でも、貸し手には借り手以外の人間に返済を請求する権利は法的にありません。
親が個人と交わした借金の返済義務は、借金の証拠の有無にかかわらず子にはおよばないのです。

金融機関から親が借りた借金の返済義務は子にはない

個人間の借金だけでなく、親が金融機関からお金を借りた場合でも、基本的に子には返済義務はありません。
仮に親が借金を踏み倒し、金融機関から自宅に督促状が届いたとしても、借金の返済責任はあくまでも親本人にありますから、子はもちろん、配偶者や親族には一切影響はおよびません。

もし親以外の第三者が金融機関から借金の返済を取り立てられたとしたら、すぐに警察に通報してください。

金融機関が借り手以外の人間に返済請求することは、貸金業法という法律で禁止されていて、違反した場合は強要罪や恐喝罪などで罰せられるのです。

強要罪 本人やその親族にたいして、暴行や脅迫をもちいて義務なきことをさせたり、権利を妨害する犯罪
恐喝罪 人の弱みにつけこみ、金銭や品物を脅し取る犯罪

子に返済義務が及ぶのは親の保証人になったときのみ

住宅ローンや事業のためのローン、教育ローンに代表されるように、金融機関から高額融資を受けるときには、借金の名義人のほかに保証人や連帯保証人を立てなければならないケースがあります。

保証人や連帯保証人は、いずれも名義人が作った借金の返済義務を負う立場にある人間です。

もし子が親の借金の保証人や連帯保証人になってしまった場合は、血縁関係にかかわらず、親の借金の返済義務が生まれてしまいます。
子には親の借金を返済する義務はありませんが、保証人や連帯保証人には債務者がつくった借金の返済義務があるのです。

保証人や連帯保証人に借金の返済請求がいくケースは、「名義人が返済を滞納した」「名義人が行方不明になった」「名義人が債務整理や自己破産をした」など、名義人に返済意思や返済能力がないケースです。

万が一あなたが親の保証人や連帯保証人になってしまったとしたら、返済義務が自分に降りてこないように親の返済状況をきちんと監督しておかなければなりません。

保証人からは交渉しだいで外れられる

親の保証人や連帯保証人になっている方のなかには、契約当時に金融取引への知識が浅かったために、無意識のうちに多大な責任を背負ってしまって困っている方がいるかもしれません。

自分の将来を考えて不安になったとき、後から保証人や連帯保証人を外れることはできるのでしょうか?

答えはイエスです。

保証人や連帯保証人は、代わりの人物を立てたり、十分な担保を用意できれば、すでに借金の契約を完了してしまってからでも変更することができます。

ただし、この保証人や連帯保証人の変更手続きには、金融機関との交渉が必要です。
審査の末、代わりの人物や担保が十分に評価されなければ、残念ながら保証人あるいは連帯保証人を外れられない可能性もあります。

金融機関との交渉を成功させるためには、代わりの人物にはなるべく社会的信用の高い人物を、担保にはできるかぎり評価額が高い不動産を用意することが大切です。

保証人や連帯保証人を外れる方法
  • 代わりの人物を立てる
  • 十分に価値のある担保を用意する

ポイント
個人の社会的信用の高さには、年収、雇用形態、勤続年数、居住形態、信用情報などが関係します。

信用情報に滞納履歴のようなマイナス情報がおおい場合には金融機関からの信用力が著しく下がることがあるので、自分に代わって保証人や連帯保証人になってくれる人物を探すときには、あらかじめ当人の信用情報を照会しておくようにしましょう。

親の死亡時には借金も相続しなければならない

親の保証人や連帯保証人になっていない限り、子には親の借金の返済義務はありません。

しかし、親の死亡により遺産相続をする場合は、親の財産だけでなく借金も一緒に相続しなければならないので、話は別です。

親の遺産は、基本的に親の配偶者(生存しているほうの親)と子でわけあって相続します。

相続の割合としては、親の配偶者が死亡した親の遺産の1/2をもらい、残りの遺産を子たちで均等にわけあうという具合。
親が遺言書を残していたり、相続人のあいだで遺産分割協議をする場合には例外もありますが、基本的に親の遺産は上記の割合でわけられます。
※親の借金に保証人がいれば、借金の返済義務は相続人ではなく保証人にいきます。

親の遺産の相続の割合

親の配偶者(母or父) 親の遺産の1/2
子(あなた) 残りの遺産を平等に兄弟姉妹で分けあう

住宅ローンのような高額の借金では、ローンを組む際に「団体信用生命保険(通称:団信)」といって債務者の死亡時に保険金でローンを完済するための保険に加入するケースが一般的です。
こういった団信制度のあるローンでは、親の死亡と同時にローンが完済されるので借金を相続させられる心配はありません。

いっぽうで、カードローンや自動車ローン、事業のためのローンなどには団体信用生命保険の制度が基本的にありません。

そのため親の死亡後は遺族が借金を相続し、親の代わりにローンの返済を続けなければなりません。

ローンは毎月1回ずつ返済していく商品がおおいので、親の死亡から1ヶ月~2ヶ月程度経つと金融機関から督促状や催促の電話などがきます。

この時点で親の生前には把握していなかった借金が発覚することもありますからやっかいです。

また、親の死亡時には、フィットネスクラブの代金であるとか、書籍の定期購読の代金、通信教育の代金など、借金以外の支払請求がくることも多々あります。
無駄な支払いを避けるためにも、こういったサービスはなるべく早めに止めておくようにしましょう。

離婚や絶縁状態の親の借金も子に相続される

離婚による別居などで親と疎遠になっているケースであっても、あなたが親の相続人であることは変わりません
この理由は、親子の縁は親子の間になにがあろうと法的には一生切れないからです。

離婚とは夫婦の縁を切る行為でこそあるもの、親子関係を切る行為ではありません。

仮にあなたに離婚して疎遠になった父がいたとして、その父が再婚し、後妻とのあいだに新たに子を授かっていたとしても、元妻とのあいだの子であるあなたが父の子である事実は変わりません。

疎遠になった親の財産は把握しにくいもの。
遺産相続によって損をしないためにも、こういったケースでは弁護士を頼るなどして慎重に手続きを進めることが大切です。

親が事業で抱えた借金も子に相続される

親が個人事業主や法人代表者である場合には、事業で借金を抱えているケースがあります。

会社の財産や負債は基本的に会社のものなので、事業主個人のものではありません。
しかし、会社が金融機関からお金を借りるときにはたいてい法人代表者が連帯保証人になっているものなので、親が法人代表者であれば【会社の負債=親の借金】だと考えておいたほうがよいでしょう。

親が事業で抱えた借金を相続する場合、頭に入れておくべきは、借金の相続権は子が親の事業を引き継ぐか否かに関わらず発生するというコトです。

たとえば、あなたに兄がいたとして、兄が親の事業を引き継ぐことになったとしても、親の事業による借金は
兄弟妹に平等に分配されてしまうのです。

事業による借金はカードローンや自動車ローンなどでの借金と違い、数百万円から数千万円規模と高額なケースが少なくありません。

遺産相続によって自己破産しないためにも、まずは弁護士をたてるなどして借金総額を洗い出してから、遺産を相続すべきか、相続しないべきかを決めたほうが安心です。

親の借金を相続しない・減額する方法

親の借金を遺産相続したくない場合は、次の2つの方法で相続を回避・減額できます。

財産放棄 財産および借金の相続を拒否するための手続き
限定承認 借金が財産を上回っているときに、その超過分の返済を免除してもらうための手続き

財産放棄で借金の相続を一切拒否する

財産放棄とは、その名のとおり親の財産や借金を一切相続しないための手続きです。
この手続きをすれば親の借金を相続せずに済みますが、同時に親の相続人としての地位を失ってしまうので、今後親の遺産を一切相続できなくなってしまいます。

財産放棄の手続きは、親が亡くなり、自分が相続人になるとわかってから3ヶ月以内に完了しなければなりません。※

財産と負債が把握できたら、すぐに申述書を作って家庭裁判所に財産放棄の申し立てをしましょう。
※あらかじめ裁判所に申し立てれば、熟慮期間(3ヶ月間)の延長もできます。

申し立てが受理されたら、裁判所から「相続放棄の申述についての照会書」が郵送されます。
必要事項を埋めて照会書を返送すれば、あとは相続放棄が受理されるのを待つだけです。

財産放棄の流れ
  1. 親の財産・借金の全容を把握する
  2. 申述書を作成する
  3. 家庭裁判所に申し立てる
  4. 家庭裁判所から照会書が届く
  5. 必要事項を埋めた照会書を返送する
  6. 家庭裁判所が相続放棄を受理する

手続きにかかる金額は、裁判所の手数料800円のみ。
そんなに難しい手続きではないので個人で処理することもできますが、不安な場合は弁護士や司法書士に依頼することもできます。

相続放棄の注意点は、手続きが受理されるまでのあいだは一切親の遺産に手を付けてはならないコト!
一度でも親の財産に手を付けてしまうと、財産放棄できなくなってしまいます

「親が亡くなったら、銀行口座が凍結される前に預貯金を引き下ろおかなければならない」とはよく言われますが、親の預貯金を下ろす行為は親の財産を相続する行為になるので注意してください。

限定承認で借金の相続分を減額する

限定承認は、相続しなければならない借金が相続できる財産よりもおおい場合に、財産分を超過している借金の返済を免除してもらうための手続きです。

たとえば、あなたが親から500万円の財産を相続できるとして、相続させられる親の借金が700万円ある場合に限定承認すれば、金融機関は超過分の200万円をあなたに返済請求できなくなります。

財産放棄と違って、限定承認は相続権そのものを放棄するものではありません。
しかし、相続した財産とおなじ分だけは親の借金の返済義務を担うことになります。

限定承認の手続きも、親が亡くなって自分が相続人になるとわかってから3ヶ月以内に済ませなければなりません。※
基本的な流れは自己破産とおなじなので、親の財産・負債が把握できたら早めに手続きをはじめましょう。
※あらかじめ裁判所に申し立てれば、熟慮期間(3ヶ月間)の延長もできます。

ただし、自己破産と違って限定承認はあなた個人だけではできません。

限定承認の手続きは相続人全員で行わなければなりませんので、裁判所に申し立てる前に自分以外の相続人が誰なのかを把握して、相続人全員で限定承認する意思を統一しておきましょう。

財産放棄した場合、返済義務は誰に行くのか?

財産放棄をしたら、亡くなった親の借金の返済義務は誰にいくのでしょうか?

まず、親が亡くなった場合に財産を相続できるのは子と親の配偶者のみ。
彼らのことを法律では「第1順位の相続人」といいます。

第1順位の相続人が相続放棄した場合は、親の遺産の相続権は第2順位の相続人、第3順位の相続人へと順番に移っていきます。

第2順位の相続人は親の実の祖父母、第3順位の相続人は親の兄弟姉妹です。

第1順位の相続人である親の配偶者や子が財産放棄をした場合は、親の借金の返済義務は親の実の両親や兄弟姉妹が財産放棄しない限り彼らにいきます。
親戚間のトラブルを生まないためにも、親の配偶者と子が財産放棄する場合には、親戚にその旨を知らせておきましょう。

法定相続人は第3順位の相続人までなので、第2位、第3順位の相続人も続けて財産放棄した場合には、借金の債権者である金融機関などは借金を回収できなくなります
債権者が裁判所に対してしかるべき手続きをとれば、所有者がいなくなった親の遺産のうち財産だけを
受け取ることはできますが、残る借金に関しては泣き寝入りせざるを得ないのです。

まとめ

子が親の保証人や連帯保証人になっていない限り、親の借金の返済義務は子にはいきません。

もし親の保証人や連帯保証人になってしまって困っている場合には、代わりの保証人を立てるか、担保を差し出すことで保証人を外れられるケースもあるので、金融機関と交渉してみましょう。

借金の保証人や連帯保証人になるということは、債務者本人に代わって自分が借金を返済しなければならないリスクを受け入れるということ。

親に限らず誰かから保証人になるよう頼まれたときは、たとえ信頼できる相手であってもふたつ返事でokを出さず、リスクと自分の将来をきちんと考えて返事をしてくださいね。

なお、親が亡くなってしまい、親の借金に保証人がいない場合には、相続人が親の借金を相続しなければなりません
たとえ親と絶縁状態にあったとしても、親子の縁は法的には切れるものではありませんので、絶縁状態にある親が借金を抱えている場合には覚悟しておいてください。

もし親の借金を相続したくないなら、家庭裁判所に財産放棄か限定承認の申し立てをすれば、借金の相続を回避・減額できます。
といっても財産放棄や限定承認にはデメリットもあるから、行うかどうかは家族や弁護士、信頼できる親戚などと十分に話し合うことが大切です。